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工場建設
工場建設において、知っておくべき情報をわかりやすくまとめています。
工場建設するなら最低限知っておくべき3つの法律
1.都市計画法
工場を建設しようと思ったら、第一に考えるのが「どこに建てるか」ではないでしょうか。その際に意識しなくてはいけないのが「都市計画法」です。私たちが住んでいる街に当たり前のようにある道路や学校、病院や公園などもこの都市計画法によって設置が定められています。たとえば、あなたの家の隣にとつぜん空港ができてしまうと、健康で文化的な生活が送れなくなってしまいますよね。このようなことがないように、「ここは住宅街にしよう」「ここは工場地域に、ここはビジネス街に」など、法律にのっとって都市づくりがされているのです。
都市づくりを進めるエリア
都市計画区域とは
「ここで街づくりをしよう」と決めた区域を都市計画区域と呼びます。区域の決定は都道府県が行いますが、複数の都府県をまたぐ場合は、もめ事が起きないよう国土交通大臣が指定します。指定された都市は、人口や自然、産業や交通量などを考慮して総合的に整備・開発されます。
準都市計画区域とは
のちのち都市開発をする可能性がある区域を「準都市計画区域」といいます。こちらも都市計画区域と同じように都道府県が指定します。準都市計画区域に指定された区域は、地域や国民にとって不利益な開発などが行われないよう規制されます。
都市計画で決定される用途地域とは
都市計画区域は「市街化区域」と「それ以外の区域」に分けられます。工場を建てられるのは「市街化区域」のみ。市街化区域の土地の利用用途は13種類に分類されており、大きく分けると「住宅地」「商業地」「工業地」の3つのエリアで構成されています。工場を建てる場合は「工業地」を選ぶわけですが、その中でもさらに「工業地域」「準工業地域」「工業専門地域」があります。それぞれの地域で建設できる工場が変わってくるので、詳しくみていきましょう。
工業地域
どんな工場でも建てられる地域。火薬・石油・ガスなどの危険物の貯蔵も可能です。また住宅や店舗は建設できますが、学校や病院は建てられません。
準工業地域
危険性が高く、環境を悪化させるおそれがある工場は建設できない区域。公害発生の可能性がない工場の建設は可能です。準工業地域は学校や病院も建てられるため、住宅や商業施設、小規模工場などが入り混じったエリアだといえます。
工業専門地域
住宅の建設ができないエリア。人が住むことができない地域にあたります。工業地域と同じようにどんな工場も建てられる区域ですが、学校・病院・店舗・ホテルなどは建てられません。京浜工業地帯のような工場が立ち並ぶ街並みをイメージするとわかりやすいでしょう。主に海沿いや川沿いが指定されることが多く、危険性が高い花火工場や石油コンビナートなどはこの地域に建設されます。
2.建築基準法
建築基準法は建築物の敷地や構造、設備や用途の最低基準を定めた法律です。私たちが日々快適で安全に生活できているのは、建物が一定の基準やルールをもとに建てられているからだといえます。
工場を建てるときは建築基準法にしたがい、行政の審査や検査を受ける必要があります。まず、建築計画の段階から工場を稼働するまでの流れをみていきましょう。
建築計画から稼働までの手続き
3段階にわけて確認・検査が行われます。
- 建築計画の作成(設計)段階から工事着手まで
計画している建築物が法に適合しているか、特定行政機関による確認を受けたのち、工事が始まります。 - 施工段階
特定の工程が終わったところで、建築物が基準に適合しているか検査を実施します。 - 施工終了から工場稼働まで
工事が完了すると、特定行政機関による最終検査が行われます。すべての検査にクリアしてはじめて工場の使用許可がおりる仕組みになっています。
工場が稼働したあとは「定期報告制度」にて、一級建築士らによる定期的な検査を受けることになります。
検査の内容
行政によるそれぞれの検査は、どのような内容になっているのでしょうか。建築基準法で定められている制度についても確認していきましょう。
建築基準法で定められている基準は、工場も含めたすべての建築物に適用される「単体規定」と、都市計画区域や準都市計画区域に適用される「集団規定」の2つに分けられます。工場は都市計画区域にのみ建てることができるので、どちらの規定も知っておく必要があります。
単体規定
全国すべての建築物に適用される単体規定は、個々の建物の安全性を確保するための基準です。
- 敷地の衛生・安全の確保
- 地震などによる倒壊防止の構造
- 防火・避難経路による人命確保(耐火構造や避難階段など)
- 採光や給排水設備などの一般構造
集団規定
集団規定はおもに都市計画区域に適用され、「健全なまちづくり」を目的として定められています。主な規制内容は次の3つです。
1.接道規制
建築物が幅員4メートルの道路に2メートル以上接しなければならないという規制。火災をはじめとする災害に備えた避難経路の確保、消防車や救急車などの経路が確保を目的としています。
2.用途規制
建築制限にしたがっているか確認するための規制。工場の場合は工業地域であるか、どのくらいの危険性があるものを扱うかなどが確認されます。
3.形態規制
建築物の高さや大きさを制限するものです。一定の開放空間を確保することで、通風や採光、延焼防止などの役目を果たします。また都市全体の密度をやわらげるため、容積率や建ぺい率も規制されています。
建築基準法の変化
建築基準法は昭和25年に施行されてから、何度も改正を重ねています。近年でいえば構造計算書偽装問題により検査がいっそう厳しくなりました。構造計画書の二重チェックや申請書の不備が見つかった場合は、修正ではなく再申請を義務付けています。耐震基準を違反した場合は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金というように建築士に対する罰則を強化。法人ですと罰金1億円の厳しい処分が課されます。
3.工場立地法
工場立地法とは、一定の大きさの工場を建てる際に緑地などを設けて周辺地域の生活環境を保持しようという法律です。公害や環境破壊を防ぐといった目的があります。工場立地法ができたきっかけは、昭和40年代に起きた「四日市公害裁判」の公害訴訟。大気汚染や排水問題などで企業の責任が問われ、工場建設に対する反対運動が起きるようになったため法律が制定されました。具体的内容は次の3点になります。
- 敷地面積の30〜65%以内を生産施設とすること(業種により異なる)
- 敷地面積の20%以上を緑地とすること
- 敷地面積の25%以上(緑地含む)を環境施設とすること
対象となる工場
業種
製造業、電気供給業、ガス供給業及び熱供給業(※水力発電所、地熱発電所及び太陽光発電所は除く)
規模
敷地面積 9,000m2以上、または建築面積 3,000m2以上
緑地・環境施設とは
工場を建てる際に義務付けられているのが「敷地内の緑化」です。緑地とは、敷地の周辺に樹木や芝などを生育する土地を指します。工場施設の屋外や屋上などに植物を設け、周辺地域の人々の生活環境に配慮することが目的です。
環境施設は、噴水や運動場、広場や文化施設などを指します。また太陽光発電施設も環境施設に含まれます。
緑地のメリット
工場内を緑化するメリットについてまとめました。
- 夏の遮熱やヒートアイランド現象の軽減
- 従業員の健康やストレス負荷を軽減
- 環境問題への改善による企業のイメージアップ
- 騒音を軽減させる
- ほこりやチリを防ぐ
工場敷地の規制
工場を建設する際、生産施設面積は敷地全体の30〜65%以内という規制があります。工場に付随するその他の施設(事務所や駐車場、研究所や倉庫など)に規制はありません。
届け出の実施
以下のような場合、工場所在地の市町村へ届け出が必要です。
- 特定工場を新しく設置する
- 敷地面積や建築面積の増加、施設の用途変更により特定工場の対象となる
- 緑地の撤去や配置換え
- 特定工場を廃止する
- 特定工場届出者の名称変更や住所が変わった(社長や工場長交代については届け出は不要)
- 地位を承継する
基本的に届け出から90日間は着工ができないので覚えておきましょう。ただし、自治体の判断で30日に短縮されるケースもあります。
日本の工場の姿
現在、中国やインドの大気汚染問題は、国民の健康を害するほどとても深刻化しています。日本では工場による公害が起きないよう、工場立地法という法律にて国民を守っているのです。企業が法律を厳守することで、そこで働く従業員や周辺に暮らす人々の生活環境が守られ、地球全体への環境配慮にも繋がります。
工場建設の事例
大型固定式テント工場

画像引用元:太陽工業株式会社公式サイト
( https://www.taiyokogyo.co.jp/use_list/index.php/item?cell003=倉庫・工場&cell004=大型固定式テント倉庫&label=1&sort=&order=&page=1&name=大阪原木共同組合 様&id=156)
- 商品名:FLEX HOUSE-MEGA メガフレックス
- 用途:工場(住宅用木材加工)
- 寸法:W32m×L30m×H8m
2006年に建設された大型固定式テント工場です。特筆すべきは幅、奥行きともに30m、そして高さが8mもある空間において完全無柱の空間を作れていること。これが太陽工業のテント倉庫・FLEX HOUSE-MEGA メガフレックスの特徴です。
屋根材には不燃性能が高いガラスクロスを使用しています。住宅用木材加工工場として使われるので、木材の搬出入をしやすくするため開口部を大きく取っている。また、湿気が大敵なので32mの奥行きのなか、6つの換気扇を設置しています。
地上2階建の大型工場

画像引用元:石井工業株式会社公式サイト
( http://www.ishiicon.co.jp/?p=6865)
- 用途:工場(地上2階、鉄骨造)
- 延床面積:2734.22㎡
地上2階建の大型工場です。厳しい衛生管理が求められる製品の性質上、工場内には電動重量シャッター、スチール製電動軽量シャッター、シートシャッターなどで多くの仕切りを設置しています。
工場内は工程ごとの流れを重視し設計され、搬出もスムーズに行えるよう開口部から荷捌場にかけては雨を防ぐために屋根も設置しました。
事務所を併設する工場の事例

画像引用元:株式会社ヨネダ公式サイト
( https://www.yonedagumi.com/yss/ex/archives/732)
- 用途:工場(木製品加工)
- 延床面積:5,120.65m2
地上1階建てですが高さは2階建と同程度の高さを確保。また工場に併設する形で事務所も設置しました。
採光を良くするために1階部には大きめのサッシ窓、そして2階相当分には小さめのサッシ窓を設置。このことで日中、工場内部へは自然光が多く入ってきます。また、換気扇を多数設置し、工場内の空気の循環も良くなるよう設計されています。
開口部が複数取られており、それぞれトラックへの積み下ろしがしやすいようなサイズを実現。また、搬出入の際に雨で濡れないように軒テントも設置されています。
食品加工工場の事例

画像引用元:三井住友建設公式サイト
( https://www.smcon.co.jp/works/2020/06171428/)
- 用途:食品加工工場
- 延床面積:4,438m²(地上2階建)
地上2階建で事務所も併設されています。
三井住友建設が建築している工場建築はF×3FACTORY工法。低価格・短工期・高品質・自由設計を実現とした平屋建物。省エネ性能、クリーン性能などに拘られており、また改築・改修時の対応がスムーズな工法でもあります。
医療用部品製造工場の事例

画像引用元:東洋建設株式会社公式サイト
( https://www.toyo-const.co.jp/construction/const-result#生産施設-3)
- 用途:工場(医療用穿刺針製造)
- 延床面積:9461.77m²
S造2階建に併設する形で1階建の塔屋を設置しています。工期はおよそ1年半ほどかかりました。
工場建設に関するまとめ
工場を建設するには、さまざまな法律にのっとったうえで建設地を選択し、建築物を検討する必要があります。また、設計段階、施工中期、完成後にわたり行政の検査が入るため、常に法律を意識しておかなければなりません。工場の大きさに対して緑地割合を計算したり、市町村への届けを出したりする必要もあります。また周辺地域や環境にやさしい建築物であるためには、防火や衛生面での専門的な知識も必要です。
工場建設を考えているなら、早い段階から建設会社や建築士、コンサルタント会社など、そのみちのプロフェッショナルに相談しておくことをおすすめします。